2012年10月28日日曜日

ソブリン・クライシス

欧州発金融危機を読む
みずほ総合研究所編

今月はIMFの総会が東京で開催されたので、旬なトピックと思い2010年に発行された本書を図書館で借りた。まずはタイトルにある「ソブリンリスク」がどういう意味かをきちんと理解するために調べてみると、国家に対する信用リスクということ。これが何かと国家を個人に置き換えて考えてみると、例えば、毎月定期的な収入がなく、収入に見合わない出費をしている人が銀行でお金を借りようとしたら、信用リスクが高く貸すことができない。逆に長い間一つの会社に勤め持家などの資産もあり安定した収入がある人は信用リスクが低く、貸し出しができるとなる。国家も同様で収入に見合わない支出(財政赤字)が多く、現在借りている借金(国債)を返済できなくなる(デフォルト)ような事態が予想されれば、その国の信用リスクは高くなる。

恥ずかしながら、私は2010年のギリシャの財政懸念が発端となった世界の金融市場への影響というものをあまり記憶していない。私の頭の中では2008年リーマンショックからすぐに2011年の東日本大震災、サプライチェーンの寸断による日本製造業への影響、2011年夏頃のアメリカ政府のデフォルト懸念という風になっている。

本書を読んでギリシャの問題は最近始まったことではなく、なんとユーロ(欧州連合)へ加盟する段階にまで遡ることを知った。欧州連合への加盟には経済的条件があり、財政赤字は国内総生産の3%以内でなければならないのだが、1999年以降、虚偽の報告をしていた。その事実が明らかになるのが2004年だが、性懲りもなくその後も歳出計上漏れがあったと2008年に報告。この時点で既に相当信頼できない国だと思えるが。

本書は六章に分かれて構成されている。一章では過去の財政危機を振り返り金融危機の延長上に現在のソブリンリスクがあること、二章ではギリシャの問題について多角度に論点を整理、三章では共通通貨であるユーロが抱える構造問題、四章では欧州経済の脆弱性として域内不均衡の問題を取り上げ、他ユーロ諸国のリスクの所在、五章では通貨という観点からユーロを眺め、六章では日本の財政問題に焦点を当てている。

とまあ、経済の基礎が分かっていない私には十分に理解できない部分も多くあるが、それでも学べたこともある。特に第三章のユーロが抱える構造問題というのが大変面白かった。第三章の終わりに「ユーロは何を誤ったのか?」として書かれているのだが、ユーロは「安定成長協定」を結び財政的な健全さを維持はしているが、危機対応の想定がなされていない。また通貨同盟を達成しているが、政治同盟が深化しなかった。どういうことかというと通貨と金融政策が一本化されたが、財政は分権的なままで域内の財政再分配機能が不在している。ここで対照的な例として米国の州財政が挙げられる。米国は各州単位で財政がなされているが、2008以降の景気後退期には刺激策として連邦政府から州政府へ支援が実施されている。ユーロの場合はそれが十分ではない。また政策協調を実施する仕組みが欠如している。これはテレビのニュースを見ていても思うことだが、ユーロ域内の不均衡をなくすため、または危機に陥っている国の救済にしても各国ばらばらの国内政治状況が反映され、まとまらず硬直してしまう。

最後の章では日本が借金大国であるのにもかかわらず、国債価格に反映されないかなど今まで詳しく書かれている。確かに世界一の借金大国であるのに、国債の利率はとても低い。イタリアが7%台と騒いでいるが、日本は1%(?)以下。(ちなみにイタリアのプライマリーバランスは黒字らしい)日本の財政赤字について取り上げられる際に、通常GDP比で表されることが多いが、ここでは各国の資産も加味したバランスシート上の財政赤字(総資産における総負債額)、(金融資産における金融負債額)も各国別に比較されているので非常に興味深い。
ただし米国などは軍事関連の情報等、国の資産について一部情報が非公開となっているそうだ。