2011年12月28日水曜日

生命の未来を変えた男

山中伸弥・iPS細胞革命
NHKスペシャル取材班編著


次期ノーベル賞候補とも言われる京都大学の山中教授とその発明、iPS細胞についての本。NHKで取材されたものをまとめてあるようだ。本は山中教授がiPS細胞を発明するまでの経緯とiPSにまつわる問題や今後期待される医療への応用について書かれた第一部と、山中教授へのインタビューの第二部で構成されている。第一部で取り上げた内容が、第二部で会話の形で出てくることもあり、復習になって理解度が増す。

山中教授は若い頃にアメリカでの研究を経験しており、異例のスピードで国から補助金が出て創られた京都大学のiPS細胞研究所のCiRAでは、そのアメリカ研究所と同じオープンラボラトリーという形式を取られている。本著にはその写真も掲載されているが、これは日本の研究所では珍しい形らしい。通常は研究ごとに分かれた研究室は閉ざされているが、この形式だと一つの研究をしているものが、隣の別の研究が垣間見ることができる。そうすることが、互いの刺激になったり新しい発見が生まれることの手助けになるようだ。これは素晴らしいことだろうなと想像した。私の信条のひとつ、「異なるものが接触することによって、新しいものが生まれる」にしっくりきたからだ。

また、教授の研究で大切にしていることが研究を医療の場で応用すること。iPS細胞といえば、悪くなった細胞を取り替えるための細胞というようなイメージがあるが、それだけではなく、新しい医薬品開発にも使える。例えば、心臓病患者から病気の部分の細胞を分けてもらい、その部分をiPS細胞で育てて、開発途中の医薬品のテストをする。また、パーキンソン病などの難病においても患者の細胞を取り出し、病態を再現する研究が進められていて、既にいくつかの成果が出ているそうだ。

iPS細胞の研究が国家総出のプロジェクトであり、今後の医療で大変重要な役割を果たすことについてこの本で認識をした。CiRAの一階部分は多くの人にiPS細胞について知ってもらうため、一般公開されているそうなので行ってみようと思う。


2011年12月17日土曜日

ウイルスってなに?

今西 二郎著

もしかして、私ウイルスが好きなのではないかと思い始めてしばらくが経つ。しかしウイルスが一体どういうものなのか、よく分からないのでこの本を読んでみた。書籍の医学、免疫学コーナーあたりで、ウイルスについて書いた本を探してみたのだが、意外に数がない。

本著は7章に分かれていて、ウイルスとは一体何なのか知りたい人に向いている本。

1. ウイルスってなに?
2. ウイルスは何をする
3. ウイルスに対する生体の反応
4. ヒトに起こるウイルス感染症
5. 文明社会とウイルス感染症
6. ウイルス病の征服
7. 役に立つウイルス

このようにウイルスについての基本が専門的になり過ぎない程度に網羅されている。
冒頭でウイルスが何かというのを微生物全体を含めて、図で説明してある。これがとても分かりやすく、またこれまでの曖昧だった知識を整頓するのに役立つ。多くの方がご存知のように色々な考え方があるようだが、現在のところウイルスは生物ではなく生物と無生物との間に位置づけられている。(ちなみに菌は生物)そういうものはウイルスだけかと思っていたら、他にもあった。狂牛病などの際に話題になったプリオンともうひとつ、ウイロイド。プリオンはあぁ、プリオンも生物じゃなかったのかと思ったが、ウイロイドって一体何?主題から逸れるとのこと、詳しく触れられてはいないが植物に病気を引き起こすものだそう。

この本の中で、私に取って一番興味深いのが人獣共通伝染病の部分である。
人獣共通伝染病は本来は動物に感染している病気が人間にも伝染するもので、代表的なものに狂犬病やインフルエンザが挙げられる。エボラ出血熱も怖いけれど、Bウイルスというのがとても怖そうだ。Bウイルスとはサルに感染する病気で人間にかかると重症となり、脳炎や髄膜炎を起こし、致死率も高い。過去にはサルを取り扱う研究者によく発症しているらしい。なぜ人獣共通伝染病に興味があるのか分からないのだが、テレビや新聞でもそれに関する話題があると目を留めてしまう。幼い頃に観た狂犬病の犬が出てくるアメリカ映画が怖すぎたからだろうか?(ちなみに寄生虫も興味がある。エキノコックスなんて、とても怖いけど名前がすばらしい。「エキノコックス」って洋服でもブランドを作ったら日本人はよく分からないで買うんじゃないだろうか?誰かにぴったりくっついて生きようエキノコックス!)

他にも最近になって現れたエマージングウイルスなども、先の人獣共通感染症も主なものは一覧になっているので、大変分かりやすい。ウイルス入門のバイブルだ。
ウイルスが何か知りたい人にお薦めの一冊。