2012年12月26日水曜日

パンデミック新時代

人類の進化とウイルスの謎に迫る
ネイサン・ウルフ著

あぁ、おもしろかった。TEDカンファレンスにも登場した注目の学者ネイサン・ウルフによる感染症を引き起こすウイルスについて本。原題は「The Viral Storm: The Dawn of a New Pandemic Age」。専門的な知識がない人にも非常に分かりやすく書かれている。サイエンス本で、装丁もセンスよく現代的になっており、思わずジャケ買いしてしまい、中身を読んでみたら、専門的知識がないと到底理解できない内容と、いうことがままあるが、この本は大丈夫。とても分かりやすい。例に、ウイルスではないが、炭疽菌について説明されているくだりを引用する。

炭疽菌はヒツジや牛などが牧草を食べる動物にとりつく病原性細菌だが、ときどき人間にも感染して、炭疽病を引き起こし、迅速かつ効果的に死をもたらす。動物が牧草を食べる時に炭疽菌のスポア(厚い殻に覆われた一種の休眠状態で、乾燥や熱、薬品などへの耐性が強い。)を吸い込むと、宿主の体でスポアは通常の菌体となり、すばやく体中に広まるので、すぐに死をもたらすことも多い。炭疽菌は、宿主の死で終わりにしない。死にかけた宿主に残っているエネルギーを使って大量に自己複製してから、ふたたびスポアの形に戻るのだ。

という風に誰にでも分かりやすい文章で書かれている。私は仕事で翻訳もするのだが、原文では長い文章を意味を分かりやすくするために、二つに区切ることがある。この場合はおそらくプレーンイングリッシュで、短く区切られ、分かりやすく良い原文だから、理解しやすいのだと感じる。

さて、文章を褒めるのはこの辺にしておき、ウイルスではなく菌だが、炭疽菌がこのような休眠状態を取るということを初めて目にして非常に面白いと思った。
ウイルスがどのように地球上に存在していて、類人猿や人間とどのような接点があるのかを書いた第一部で特に感じるのだが、ウイルスについてウイルスの視点から書かれている。正にウイルスによるウイルスのための政治(?)。

また、注釈にあるのだが、著者はウイルスを生き物だと考えている。調べたわけではないが、おそらく現在ウイルスは公には非生物だとされていて、中に生物だと主張する少数の人がいるというのが私のイメージである。ウイルスはライフサイクルを他の生物に依存しているが、どの生命体も他の生命なしでは生きていけないので、ウイルスが特に他の生命体と違うわけではないという考えだ。細菌や古細菌、寄生虫などの微生物が生物という意見で一致しているのは単なる意味論に過ぎないと。私はこれに全く同意する。特に意味論に過ぎないと言う点。例えば、動物の分類する際に門やら科やら種やら色々あり、脊椎動物ではなかなかきちんと整理されているが、虫なんかは結構いい加減だと聞いたことがあるし、実際すっきりしないと感じることがある。つまり世の中そんなにはっきり白黒つかないのである。ではなぜ人間は区別をしないと理解できないのか、もしくはなぜ理解するために細分化するのか、をずっと不思議に思っている。池谷裕二氏の「ゆらぐ脳」を読んだ時からだと思う。今日は本題から逸れがちだ。

本の内容に戻ると、主な感染症の発祥となるのはアフリカとアジアだが、パンデミックの源は人間と野生動物の狩りという形の接触にある。アフリカでは様々な種類のほ乳類を食糧として狩るが、その中には類人猿も含まれる。類人猿と人間は近い関係にあるため、病原体をもらいやすい。人間は進化のある一時点でサルと分かれ、森から草原に出て、火を使った料理をするようになり、また数が急激に減った時期などを経て、サルとは異なる菌やウイルスを持つようになった。過去に持っていた病原体を失うとともに、その病原体から自らを守る方法もなくしてしまった。それでも生物的に近いため、サルの持っている病原体は感染しやすいのである。現在も行われている野生動物の狩りでは、血が流れ病原体にさらされやすい状態になる。そこで著者は関連団体からの助成や協力を得、世界中でパンデミックが起こるのを予想する世界ウイルス予測(GVF)という組織を立ち上げた。病原体の渡し手となるハンターを監視し、感染症が起こったらその情報を集めて、パンデミックの未然に防ぐための組織である。本を読んでいるだけでも著者のとてつもない情熱がひしひしと伝わってくる。情熱というのは文章に現れる。ある一定の速いスピードを持った文章になる不思議だ。

私も彼程ではないが、ウイルスに情熱を持っているので、この人生が終わる前に再度大学で学びたいと、ぼんやり毎日夢を見ている。

竜馬がゆく(四)

司馬 遼太郎著

記録のため、タイトル、著者名のみ。

竜馬がゆく(三)

司馬 遼太郎著

記録のため、タイトル、著者名のみ。

竜馬がゆく(二)

司馬 遼太郎著

記録のため、タイトル、著者名のみ。

2012年11月19日月曜日

感染症との闘い

サイエンティフィック・アメリカン編

記録のため、タイトルと編者名のみ。

2012年11月7日水曜日

最強ウイルス

新型インフルエンザの恐怖
NHK「最強ウイルス」プロジェクト

全くウイルスはやめられない。図書館でついついウイルスの本があるかチェックしてしまう。返却だけで借りないつもりが手に取ってしまった「感染症との闘い」、「感染症ワールド」、そして「最強ウイルス」。二週間で全て読めないと思うが...。
2008年にNHKで放送されたドラマとドキュメンタリーの「最強ウイルス」を映像には含まれなかった内容も含めたのが本書。テレビ番組が土台としてあるため、非常に分かりやすい。

新型インフルエンザとはH5NI型、高病原性鳥インフルエンザのことである。近年では1997年に香港で死者が発生しているが、ここでは2006年インドネシアで死者7名を出した際のWHOによる封じ込めが緊迫感を持って書かれている。WHOが作成しているパンデミックのプロセスは6段階に分けられている。フェーズ1人に感染する恐れのあるインフルエンザウイルスが存在するが、ヒトへの感染リスクは少ない、フェーズ2 動物において流行しているインフルエンザウイルスが、ヒトへの発症に対してかなりのリスクを提起する。フェーズ3 新しいヒト感染が見られるが、ヒトからヒトへの感染は拡大していない。フェース4 ヒトからヒトへと感染する小さな集団が見られるが拡散は限定されている、フェーズ5 より大きな集団感染がみられるが、ヒトからヒトへの感染は限定的、フェーズ6 パンデミック期。ヒト社会で感染が増加しかつ持続する。
H5N1はフェーズ3からフェーズ4に引き上げられるかというところだったが、WHOの努力によりインドネシアでのそれ以上の拡大はなかった。2008年のデータだが、感染380人のうち280人が死亡している。死亡率は60%である。鳥インフルエンザは他のインフルエンザと異なり、多臓器不全(生命維持に必要な複数の臓器の機能に障害)を起こすゆえ、致死率が高い。

同時多発テロの記憶がまだ新しいアメリカがパンデミックにどのように備えているか、日本ではどのような準備があるか、またパンデミックが起こった場合にどの命から助けていくか、救うべき命に対する優先順位づけの話なども書かれている。

最後にパンデミックがどれだけ迫ってきているかについて、3人の専門家から意見を聞いている。個人的には北海道大学の嬉田教授の意見が面白いと思った。20世紀に3回起こったパンデミックはいずれもブタからヒトに伝播したウィルスによって起こっている。つまりH5N1がパンデミックを起こすとすれば、ブタ等の動物にヒトのインフルエンザウイルスが同時に感染し新型ウイルスが誕生した場合だと。そしてH5N1はそれに暴露している人の数に対して感染者の割合が少ないため、パンデミックを起こしにくいタイプのウィルスである。では380人はなぜ感染してしまったか?それはこの人たちが鳥インフルエンザに感染しやすい特殊な遺伝的背景を持っているからと述べられている。実際にヒトからヒトへ感染したように見えるケースでは兄弟姉妹に限られ夫婦間ではないそうだ。そこで疑問に思うのだが、なぜブタなんだろうか?鳥よりもブタというのは分かる。なぜならきっと鳥よりもブタの方が体の構造などが人間に近い。なぜ牛じゃないのだろう。そういえば、先日テレビで見たiPS細胞を利用した臓器作成でも使われていたブタだったような気がする。実験動物として牛より扱いやすいからか、構造が牛よりもブタの方が近いからか?ブタには胃袋、いくつあるんだろうか。

生命のことを考えると面白くてたまらない。とても複雑で一つ知る度に知らないことが何十倍にも増えて終わりがない。

2012年10月28日日曜日

ソブリン・クライシス

欧州発金融危機を読む
みずほ総合研究所編

今月はIMFの総会が東京で開催されたので、旬なトピックと思い2010年に発行された本書を図書館で借りた。まずはタイトルにある「ソブリンリスク」がどういう意味かをきちんと理解するために調べてみると、国家に対する信用リスクということ。これが何かと国家を個人に置き換えて考えてみると、例えば、毎月定期的な収入がなく、収入に見合わない出費をしている人が銀行でお金を借りようとしたら、信用リスクが高く貸すことができない。逆に長い間一つの会社に勤め持家などの資産もあり安定した収入がある人は信用リスクが低く、貸し出しができるとなる。国家も同様で収入に見合わない支出(財政赤字)が多く、現在借りている借金(国債)を返済できなくなる(デフォルト)ような事態が予想されれば、その国の信用リスクは高くなる。

恥ずかしながら、私は2010年のギリシャの財政懸念が発端となった世界の金融市場への影響というものをあまり記憶していない。私の頭の中では2008年リーマンショックからすぐに2011年の東日本大震災、サプライチェーンの寸断による日本製造業への影響、2011年夏頃のアメリカ政府のデフォルト懸念という風になっている。

本書を読んでギリシャの問題は最近始まったことではなく、なんとユーロ(欧州連合)へ加盟する段階にまで遡ることを知った。欧州連合への加盟には経済的条件があり、財政赤字は国内総生産の3%以内でなければならないのだが、1999年以降、虚偽の報告をしていた。その事実が明らかになるのが2004年だが、性懲りもなくその後も歳出計上漏れがあったと2008年に報告。この時点で既に相当信頼できない国だと思えるが。

本書は六章に分かれて構成されている。一章では過去の財政危機を振り返り金融危機の延長上に現在のソブリンリスクがあること、二章ではギリシャの問題について多角度に論点を整理、三章では共通通貨であるユーロが抱える構造問題、四章では欧州経済の脆弱性として域内不均衡の問題を取り上げ、他ユーロ諸国のリスクの所在、五章では通貨という観点からユーロを眺め、六章では日本の財政問題に焦点を当てている。

とまあ、経済の基礎が分かっていない私には十分に理解できない部分も多くあるが、それでも学べたこともある。特に第三章のユーロが抱える構造問題というのが大変面白かった。第三章の終わりに「ユーロは何を誤ったのか?」として書かれているのだが、ユーロは「安定成長協定」を結び財政的な健全さを維持はしているが、危機対応の想定がなされていない。また通貨同盟を達成しているが、政治同盟が深化しなかった。どういうことかというと通貨と金融政策が一本化されたが、財政は分権的なままで域内の財政再分配機能が不在している。ここで対照的な例として米国の州財政が挙げられる。米国は各州単位で財政がなされているが、2008以降の景気後退期には刺激策として連邦政府から州政府へ支援が実施されている。ユーロの場合はそれが十分ではない。また政策協調を実施する仕組みが欠如している。これはテレビのニュースを見ていても思うことだが、ユーロ域内の不均衡をなくすため、または危機に陥っている国の救済にしても各国ばらばらの国内政治状況が反映され、まとまらず硬直してしまう。

最後の章では日本が借金大国であるのにもかかわらず、国債価格に反映されないかなど今まで詳しく書かれている。確かに世界一の借金大国であるのに、国債の利率はとても低い。イタリアが7%台と騒いでいるが、日本は1%(?)以下。(ちなみにイタリアのプライマリーバランスは黒字らしい)日本の財政赤字について取り上げられる際に、通常GDP比で表されることが多いが、ここでは各国の資産も加味したバランスシート上の財政赤字(総資産における総負債額)、(金融資産における金融負債額)も各国別に比較されているので非常に興味深い。
ただし米国などは軍事関連の情報等、国の資産について一部情報が非公開となっているそうだ。



2012年9月14日金曜日

心の安らぎを得る究極のタイムマネジメント

ハイラム・W・スミス著

記録のためタイトル著者名のみ。

2012年8月25日土曜日

脳を鍛えるには運動しかない!

ジョンJ. レイティ著

記録としてタイトル、著者名のみ。

2012年6月23日土曜日

動物のお医者さんになろう!!

浅井美穂著
記録としてタイトル、著者名のみ。

ウィルスと地球生命体

山内一也著

記録としてタイトル、著者名のみ。

2012年5月20日日曜日

眠れない一族

食人の痕跡と殺人タンパクの謎
ダニエル T マックス著


題名にある「眠れない一族」というのは、致死性家族性不眠症(FFI)というプリオン病を代々患うイタリアのある家族を指しているが、内容はこの病気以外も含めたプリオン病およびプリオンについてである。
FFIという病気はある日突然眠ることができなくなって、精神状態に異常をきたし、最後に死に至る治療法のない病気だ。そこで不思議なのが、FFIの遺伝子を持っているものは必ず死に至るのに、この家族が少なくとも分かっている範囲で16世紀(17世紀?)からずっと続いているということだ。遺伝は100パーセントの割合で現れる訳ではないのもその一つの理由だが、発症するのが出産や子育てを一段落おえた50代などと遅いこと、またFFIの家系は世界的にみても非常に少なく、病気の原因が長い間特定されず遺伝病と認識されていなかったことにもよると思う。
著者自身も別の種類のプリオン病を患っていて、プリオンについて徹底的に調べた内容は非常に良いと思う。狂牛病についても全容を理解するに必要な情報が詳しく書かれていてよかった。問題点は文章がおかしいこと。非常に読みづらい。始めは翻訳の問題なのかと思ったのだが、おそらく原文でも読みにくいと思う。例えばタイトルは「眠れない一族」で、FFIを患うイタリアの家族の家系図も始めについている。小説仕立てで、FFI病とこの家族に関する話なのかと思いきや、それはほぼ一章くらいで終わる。構成に問題があるような気がする。また文章の流れを見ても、少し途切れて突然ターンするような部分があるのだ。もしかすると著者が体調のよくない時に書いた文章だろうか?そのため、内容はとても良いにもかかわらず非常に読みづらく、読み終わるまでに多く時間がかかった。


2012年5月7日月曜日

腸からはじめる幸せ健康法

新谷弘実著

食べ物にアレルギーがある会社の同僚から借りた本。著者の新谷氏はアメリカで活躍する胃腸内視鏡分野の医者である。雑誌のような薄めの本で、中には新谷氏だけではなく他の複数の医者が腸内環境、特に乳酸菌と健康の関係を述べている。新谷氏はアメリカで診察にあたっていたのだが、肉食を中心とするアメリカ人の食生活は胃腸に悪いことに気がついた。そのために汚れたり荒れてしまっている胃腸の写真も掲載されている。確かこの本で読んだと思うが、成人病大国となってしまったアメリカは状況を改善するために、国をあげて野菜を多く取るよう奨励し、現在のアメリカ人の野菜摂取量は日本人のそれを上回っているそうだ。また、日本では農作できる土地が限られていて、長期間にわたる農薬や科学肥料の使用により収穫される野菜自体の栄養価が下がっている。同じほうれん草でもアメリカで育ったほうれん草の方が栄養が豊富ということだ。一般的なアメリカ人の肥満ぶりを見ると、野菜の摂取量については信じられないが、野菜の栄養価については本当かもしれない。もともと肉食の歴史が長い白人は脂肪を溜めやすい体にできているため、もしかすると現在の日本人も表面に現れていないだけで十分不健康なのかもしれない。
本書で薦められている食生活についてはマクロビやその他菜食を中心とする健康法と似通っている。動物および鶏の肉食を既にやめていたので、提案されている生活方針には納得。
ここで新に学んだのは副交感神経と、交感神経のバランスについてだ。白血球に含まれるリンパ球の割合が多くなると副交感神経がよく働きリラックスした状態になる。顆粒球が増えると交感神経がよく働き活動的になる。そして人間はこのバランスを上手くとっていないと病気になる。ストレスいっぱいの生活もだめだが、リラックスし過ぎても病気になるということだ。

2012年4月27日金曜日

たんぱく質入門

武村 政春著

たんぱく質とはどういうものか教えてくれるその名の通り入門本。色々な本を読んで病気や食べ物について考えている中で、生物の基本であるたんぱく質について理解したいと思い手にとった。たんぱく質が20種類のアミノ酸で成り立っていることは知っていたが、実際どのようにアミノ酸から成り立っているか、DNAがたんぱく質を作るための情報を持っていることは知っているが、具体的にどのようにたんぱく質を作り出しているかなど、私の中に様々な疑問があった。この本を読むことでそれは解消できた。しかしながら、これを書いている今(6月23日)は読み終わって2月くらい経っているのだが、内容を結構忘れている。生物系の本を結構読んできたので、それなりに積み重なってそろそr忘れないくらいしっかり理解できた事柄もあるが、なかなか難しい。これは忘れないでおこうと頭の中で何回か繰り返して覚えたのが、たんぱく質の構造。20種類のアミノ酸はほぼ同じ構造をしていて側鎖という部分だけが異なり、その違いをつくっている。アミノ酸同士がペプチド接合でつながったポリペプチドが一次構造、それらがくっつき板状や螺旋状になる二次構造、二次構造を折り畳んでできる三次構造でたんぱく質となる。そして三次構造が集まってともに働くたんぱく質複合体(四次構造)というのもある。とても複雑だ。そしてとても美しいと思う。命の構造を知れば知るほど、その美しさに魅了されてしまう。

2012年4月26日木曜日

キリング・フィールドへの旅

カンボジアノートII
波田野 直樹著

1975年から1979年の間にカンボジアではクメールルージュによる国民の大虐殺が行われた。本著は虐殺行為の残虐さに焦点を当ててはいるのではなく、当時のカンボジアを取り巻く環境や時代背景を確認しながら、なぜ彼らがそのような方向に向かったかという一つの疑問を、虐殺の場への訪問と集めた資料を通して解こうとしている。
先日NHKオンデマンドで、国連の国際裁判所によるクメールルージュ幹部と処刑施設トゥールスレンの所長に対する裁判のドキュメンタリーを見た。そのせいか図書館の本棚にあるこの本に目が止まってしまった。私みたいな文章の下手な人間が言うのもなんだが、この本の文章は、色気なく歴史上の事実を並べたノンフィクションとは異なり、小説のように書かれていて、読みやすい上に文章が美しい。どう表現していいかわからないのだが、すばらしい。
始めの方に使用される用語の定義が述べられる。その中で始めてはっきりとその定義を認識したのがジェノサイドだ。ジェノサイド(民族、宗教、国民などの集団に対する大虐殺)はユダヤ人学者が第二次世界大戦中のホロコースト以降に創り出した言葉だそうだ。現在は人類に対する罪として認識されている。

そして私が長く疑問に思っていた点に触れる。戦争を根絶できないように虐殺もまた根絶できない。人間というのは不思議な存在で、相反する要素を未整理のまま内包した存在である。戦争や殺人がなぜ起こるのか不思議である。もしそれがその存在にとって悪いことであれば、自然と殺人や戦争が起こらないように思える。しかしながら、人類の歴史ではいつもどこかで戦争や殺人が起きている。一つの規範の中では穏やかに暮らす人間も、一旦別の規範に入れられてしまえば、残虐なことを平気で行えるようになる。

S21と呼ばれていたトゥールスレンやその他の処刑場所の訪問、政治的な背景、クメールルージュ幹部達と同時期にパリに留学していたカンボジア人との会話、現在のカンボジア人がどう受け止めているかなどを通して、著者が経験したものを共有することができる。

さて、なぜ彼らが一説には170万人といわれている数の自国民を虐殺したのか、その理由について明確な結論は述べられていない。読者自身がその答えを出すよう求めているかのようだ。

2012年4月22日日曜日

いま伝えたい細菌戦のはなし

隠された歴史を照らす
森 正孝著


第二次世界戦争時に、日本軍が中国の一般人が住む村や民家に細菌を散布して、多くの人々が亡くなったという出来事を、その体験者やこれに参加した元日本軍兵士の証言、日本軍による記録を元に書かれた本。著者は元731部隊について研究をされていたそうだが、人体実験以外に細菌散布を実践していたことを知らず、中国に訪れ731部隊の跡地を訪れた際に出会った中国人によりそのことを知ったそうだ。731部隊は京大医学部卒、陸軍軍医の石井四郎がヨーロッパを視察した際に各国が細菌研究に力を入れているが、日本は遅れているとして軍関係者に細菌戦研究の専門施設をつくるよう訴えたのが始まりとのこと。その頃、世界では細菌戦について既に研究がなされており、使用された場合の結果が悲惨になると認識されていたため、既にジュネーブ条約で毒ガスとともにその使用が禁止されていた。捕虜の取り扱いについてもそうだが、第二次世界大戦時、日本はジュネーブ条約を随分無視しているように思う。中国ハルビンを研究拠点として、日本軍はコレラ、ペスト、パラチフスといった病原菌を捕虜を使って研究し、菌を感染させた蚤を撒いたり、菌を井戸に投げ込んだり、菌を含んだ餅を配ったりして軍人ではない一般の人々も多く死なせたとある。本書の後半では実際にそれらの悲劇を経験した被害者と加害者両方が写真と実名を公表して話を載せている。一つ疑問に思うのが、日本軍はなぜ一般市民に向けてこれを実施したのかということ。それが後々細菌戦として兵士向けに使用するための実験であったのか、細菌戦が中国との戦争や太平洋戦争における日本軍の戦略でどのような位置を占めていたか、などについては書かれていない。戦争は本当にひどいことが多く起きる。平和に暮せることに感謝する。

2012年4月18日水曜日

食べ物はこうして血となり肉となる

中西貴之著


まず最初に食べたものがどのように栄養となるかについて説明がある。口から入った食べ物は食道を通り胃で消化され、腸で吸収され、血の流れに乗って体中に分布され、代謝され、不要となったもが排泄される。
その後は海の物、山の物、動物性食品といった分類別に具体的な食品名があげられ、その食品に特徴的な栄養成分ごとの説明がなされている。例えば、アン肝の説明では、アン肝にはビタミンDが多く、骨をつくる骨芽細胞に作用して新たな骨をつくることに作用しているなどとある程度詳しく書かれているが、文章が平易なので読みやすい。普段食べているものにどういう利点や欠点があるのか知りたい時に、楽な気持ちで読めるのでお薦め。

2012年4月15日日曜日

新版 ぼくが肉を食べないわけ

ピーター・コックス著
ベジタリアンの間ではどうも有名らしいこの本。どうして肉を食べるべきでないかについて、多方面から述べられている。1999年に新版として出版されているのが、これはまさに英国が狂牛病で肉の食べることの恐怖につつまれていた時期と重なる。ちなみに前後に約1年間英国に住んでいた私は今でも献血ができない。牛の狂牛病は人間に感染した後、クロイツフェルトヤコブ病として発病するまで20-30年かかることもある病気である。(人に一旦感染した狂牛病ウィルスが人へ感染した場合の発病までの期間は短い。)ではなぜ、牛にそのような病気が発生するのか、その原因について本著に書かれている。英国食肉産業では、肉の切れ端やくず肉などを集めてボイルし、脂肪とたんぱく質に分ける。脂肪はマーガリンや石けんなどに利用され、たんぱく質は家畜の餌になる。そう、草食動物で本来、動物を食べるようにできていない牛などに動物のたんぱく質が与えられていたことにより、狂牛病が流行したのだ。肉は危険なので食べるべきではないという一つの根拠だ。また食肉がどのように生産されるか、動物たちがいかにその権利を無視された環境で飼育されているか、など動物がかわいそうなので肉を食べるべきではないという説明、またがんなど、様々な病気が肉食をしている人に発生する可能性が高いので、健康のために食べるべきではないなどという説明がされている。

この本が書かれてから10年以上が経っており、また肉食の歴史が長い英国の話でもあり、病気に関する肉食の方が悪いというデータの全てを信じていいわけでもないが、一度自分が食べているものがどのように生産されるのかを知るために、多くの人に読んでもらいたいと思う。それを知った上で、積極的に肉を食べたい人は食べてもいいと思う。

この本を手に取ったきっかけは実は最近観た映画にある。「いのちの食べ方」というオーストリアのドキュメンタリーで、食品生産現場が台詞や説明なしに淡々と映されている。そこに牛がおでこに機械をあてられて殺される(気絶させられる?)場面が出てくる。この光景がなんともかわいそうで、牛肉を食べづらくなってしまった。不思議なことにその後、お腹が裂かれて血がたくさん出る場面では既に食用肉と認識しているらしく、かわいそうに思わない。あの嫌がる牛がばたんと首をうなだれる姿が頭から離れない。実際、撮影を依頼する段階で動物を殺す場面だけは見せられないと断った業者が多かったらしい。以前にマクロビオティックを始めた際には続かなかったが、色々考えた末に肉食を控えるべきかと思いこの本を借りた。現在は人付き合いなど、優先すべき時だけ肉を食べるようにしている。


2012年3月21日水曜日

大暴落 1929

ジョン・K・ガルブレイス著

1929年にアメリカで起こった株の大暴落について、大暴落が起こるまでの経緯とその後について書かれた本。原因と結果について最後に記述されてはいるが、なぜ大暴落が起こり、どうすべきだったかと具体的に分析をしたり、著者の意見を示しているというよりは、その当時の時代が含む様々な状況を客観的に記述したもの。
暴落までの出来事が時系列に書かれているため、物語のように楽しんで読めてしまうが、基本法な金融の知識は必要。人間の欲や期待という心理的なもので株式が生き物のように動くのは、いつ考えてもとても不思議に思える。

2012年3月20日火曜日

銃・病原菌・鉄 上

ジャレド・ダイアモンド著

人類の歴史をアメリカ、ヨーロッパを中心に書かれたいわゆる世界史ではなく、東アジア、太平洋を中心に書かれた本。どこかでみた書評に、ダーウィンの進化論と同じ方法で人類の歴史を書いたものとされている。

なぜ、ある地域では農耕が始まり、他の地域では始まらなかったか、なぜ、ある地域では多くの動物が家畜化されたか、新大陸に進出したヨーロッパ人と、滅びた原住民の違いは何か、など一つ一つの条件を検証しながら、論を立てていく。

やはり、私にとって一番面白いのは病原菌の部分。(ちなみにウイルスに触れているので、病原体であるべきじゃないのかなどと考え悶々としている。原題ではGerms) ヨーロッパ人が新大陸の原住民を滅ぼした原因は単に強い武器を持っていただけではなく、原住民がそれまで遭遇したことのない新しい病原体をもたらしたことにもあると書かれている。ではなぜ、逆が起こらなかったかといえば、南北アメリカでは、病原体の繁栄する環境、狭い範囲で動物を飼育するという動物の家畜化がなく、(南北アメリカには家畜に適した動物種が少ない) また、農耕を主に暮らす、自身の糞尿にさらされる機会も少なかったからとされる。つまり、これらに適応してきたヨーロッパ人はにはある抗体が原住民にはなかった。

最初の部分、地理が出て来るので苦手な私は、時々放棄し読み終わるまでに一年以上かかった。下巻を読み終わるのはいつのことやら。

2012年3月17日土曜日

動物園にできること

「種の方舟」のゆくえ
川端 裕人著

アメリカの動物園による生物種や環境保護に対する取り組みについて、著者本人が動物園を訪問し、各関係者に直接取材をしてまとめた本。1999年に出版されているので、現在とは少し状況が違うかもしれないが、アメリカという動物園先進国の状況がよく分かるような内容になっている。

現在の上野動物園のライオンやゴリラの飼育設備がこれに該当するが、実際の棲息環境に似せた飼育環境を作るイマージョンと呼ばれる展示方法はアメリカで1980年代からブームになった。確かに見る方にとっても、狭いコンクリートの檻に入れられているよりは、森林や草原を模した飼育設備の中に動物なんやってがいる方がいい。しかし動物にとってそれは、本当にいいことなのか?著者の問いは続く。
本来の行動が限られる飼育下では、動物が同じ場所の往復を繰り返す、食べ物を食べては吐くを繰り返すなどの異常行動が見られるが、これらをなくすための、エンリッチメントという取り組みがある。例えば熊は自然下では、一日中のほぼ大半を餌探しに費やす。日に数回決められた時間に、餌がもらえる動物園では退屈過ぎるのか、良くないらしい。熊を幸せにするために、ある動物園では日に何度も工夫に凝らして、餌をあちこちに隠したり、ばらまいたりする。1981年から始められた飼育下にある動物の遺伝子の多様性を守りながら、種の保存に取り組むSSP(Species Survival Plan)、そしてそこから発する余剰個体の問題、絶滅危惧種の野性復帰など、動物園が関わる役割や問題は計り知れないように思えた。

最後に日本の動物園の遅れが指摘されている。日本の動物園は自治体に運営されていることが多いため、お役所仕事のようになってしまうことが、一つの原因らしい。

さて、この本が書かれて13年が立った今、現状は変わっているのだろうか。

2012年3月12日月曜日

ピーター・リンチの株の教科書

儲けるために学ぶべきこと
ピーター・リンチ、ジョン・ロスチャイルド著

速読の飛ばし読みで読んでみた。資本主義の歴史から始まり、具体的な投資の種類、そして会社の一生について書かれている。投資の種類は投資信託、国債、不動産、株式と一通り基本の説明がある。面白く思ったのは、そもそも株式投資の前提になる会社の始まりから触れている資本主義の歴史と、会社の一生。元々ヨーロッパ人が、新大陸での新しいチャンスを目指す人々に資金を提供したのが、投資の始まり。1602年にはオランダの投資家が、オランダ東インド会社の株式を買っていた記録がある。その後さらなる開拓ビジネスの需要に応え、アメリカ中に銀行が次々と設立される。証券取引所もでき、発明品、鉄道、工場での大量生産とアメリカ経済は勢いを増していく。そして1929年の株の大暴落。こうして、歴史の中で考えると、つくづく投資の本来の姿が浮かび上がる。会社の一生では、会社を設立から衰退までのいくつかの段階に分けて、どういうことが、会社の一生に起こりえるか、そしてそれらの出来事がどのように投資に影響するかが説明されている。
ピーターさんは投資というものが、本当に好きなんだと思う。読んでいると、なんだか彼の「好き」が滲み出てくる。

2012年3月7日水曜日

破壊する創造者 - ウイルスが人を進化させた

フランク ライアン著

タイトルを見て、ウイルスと進化だけに触れているかと思うとそうではない。これまでの進化論の中核(?)となる突然変異と自然選択以外にも、ウイルスとの共生、異種交配やエピジェネティクスなどが進化に影響を与えている可能性があるということを主張している。
大体、私はダーウィンの進化論も、自然選択もきちんと分かってないので、結構分からない部分があった。ただ、文章自体はとてもわかりやすいため、「ここを分かるにはまずこっちを勉強だな」という風に、次に学ぶべきことがはっきりする。
著者は医師で、この著作によって様々な各分野の研究者の研究成果を繋げて、新しい進化論を提唱しているようだ。

遺伝子は人ゲノムのわずか1.5%を占めているだけで、人間が過去に感染した名残りのレトロウイルスは9%を占める。さらに残りは一体なんなのかよく分かっていない。この1.5%の遺伝子の解明に主に研究者達の力は注がれ、残りはないがしろにされ気味なのだが、著者はその部分にも進化の秘密が隠されていると考えている。

人間の細胞にはミトコンドリアがあるが、これは元々単独で生きていたミトコンドリアが別の細胞に取り込まれた結果こうなったと考えられている。このような共生学を研究する人々と、進化論を研究する人々が、交わることがないため、また人間に病を引き起こすウイルスは悪として扱われていることもあり、共生による進化(ウイルスとの共生による進化)へと発展しない。

私の文章のぎこちなさで、分かると思うが、とにかく基本的な進化論やゲノムの知識がないと、理解をするのは相当難しい。もう少し挿し絵を増やしてくれるといいなと思う。図書館で借りたので、時間の制限もあり、不完全燃焼のような読み方で終わらせるが、それでも、とても面白く、久しぶりにのめり込んでしまった。

生物の仕組みは果てしなく複雑で、本当に驚きの連続だ。何でそんなことに興味があるのかと聞かれても困るが、ただただ、面白くてたまらない。

2012年2月22日水曜日

お金から自由になる法則

ボード・シェファー著

久しぶりに啓発本を読んだが、こういう本はリポビタンD(好きです!)のような効果があると思う。
つまり、本当に効能のある成分が吸収されたかどうかはさておき、一過性の気分の高揚をもたらしてくれる。(ので、私には時々必要)
お金の本によくある、基本的なお金の使い方(貯蓄する、複利の効果を知る、投資するなど)と目的を達成するための方法の組み合わせといった感じである。
いいなと思ったのが、コーチやエキスパートを活用するという章。手本となる人を模倣する、自分より成功している人の話だけを聞くなど、私好みである。日々、会社の重役にあたる人たちと接しているが、やはり学ぶことがとても多い。人との付き合い方、挨拶の仕方、生活習慣、お金の使い方など、本当に尊敬できる人々に囲まれている。なんて幸せなんだろう。

2012年2月5日日曜日

日本の動物法

青木 志著


動物に関して知りたくて、借りたはいいが法律に関して何も知識がないので、読むのに少しばかり苦労する。しかしながら、情報が体系だって整理されているので、集中して読むことができればとても分かりやすい本だと思う。(以下、学びきれておらず、これから書く内容には誤りもあると思う)

これまで、イギリスは生物に関する先進国というイメージがあったが、この本を読んでその理由が分かった。狩猟鳥獣などを保護する法令は中世からあるが、動物を不必要な苦痛から保護するという動物自身の利益が保護される法律がイギリスで始めて1822年に成立している。これに比べると日本は動物に関する法律という点で、全くの発展途上国で、ここ十数年の間に急激に発展しているため、新興国のようなイメージだ。
(ちなみにイギリスの法律、憲法(どっちだっけ?)は成文化されておらず、独特の制度だと知った。)日本の法律には「人」か「物」しかなく、「動物」というカテゴリーは存在しない。一方イギリスの法律には動物という主体が存在する。

そして、イギリスの動物愛護団体がなぜあれほど活動できるか、その説明を読んで納得した。一つ目が、イギリスの法上では刑事訴追に対する権限を一般人(?)が持てる私人訴追が認められている。日本ではその権利は検察官が独占している。これはどういうことかというと、例えば、日本において動物愛護団体が動物愛護法を違反している個人を見つけたとする。しかしながら、動物愛護団体はその罪を裁判の場に持ち込むことができない。それをできるのは検察官だけである。イギリスでは動物愛護団体が、罪を裁判に持ち込むことができる。

二つ目がその圧倒的な財政力の違いである。イギリスを代表する王立動物虐待防止協会は、「王立」とついているものの、国営ではない。その主な財源は寄付金。2007年の収入を見てみると約150億円。そのうち2億円以上の金額を訴追に費やしている。では日本の代表的な愛護団体の収入を見てみると、日本動物愛護協会2007年度の収入は8000万円ほど。全く規模が異なるわけである。



秘密の動物誌

ジョアン・フォンクベルタ、ペレ・フォルミゲーラ著


図書館の動物関連の本が置いてある場所で、見つけた。開いて数ページ目には、実在したらしき少し古い時代の研究者の顔写真がある。そしてページをめくり続けると、奇妙な動物たちの姿が。例えば、ガラパゴス諸島に住むトレスケロニア・アティス。長いくちばしを持った鳥が亀の甲羅を背負っている。

仕事でスコットランドに短期滞在した、写真家の二人が借りた家の地下室から、大量の写真と不思議な生き物の標本を見つける...という風にこの本は始まる。不思議な生き物を発見した研究者のその成果を図鑑のようにして紹介している。

しかしながら、その動物たちの姿は一目見て合成したものだと分かる。読み進めるとどうやら、これは一つの芸術作品らしい。つまり、スコットランドに滞在というところから全てフィクション、創造されたものであった。

その種明かしが最後の「解説」にある。これは彼らの写真を使った現実の認識に対する一つの実験だった。
人間が月面着陸したことを、その写真を見て信じている。しかしUFOの写真は信じない。
一体本当に人間は月にいったのか?そして彼らは「絶対的な真実など存在せず、たださまざまな程度で真実に近似して見える幻想があるばかり」ということを発見をした。
この変な生き物の写真がある、さあどうだ?もっともらしい学術的な動物の生態に関する説明もある、さあどうだ?そして、このおかしな新種の動物を発見した研究者の経歴と歴史についても記載がある。ますます本当らしい。さあどうだ?

実在する動物の本かと思って、少し変とは思いながらも借りてしまった。私も創られた真実に上手いこと騙された。

2012年1月27日金曜日

竜馬がゆく(一)

司馬 遼太郎著

記録のため、タイトルと著者名のみ。