2012年3月17日土曜日

動物園にできること

「種の方舟」のゆくえ
川端 裕人著

アメリカの動物園による生物種や環境保護に対する取り組みについて、著者本人が動物園を訪問し、各関係者に直接取材をしてまとめた本。1999年に出版されているので、現在とは少し状況が違うかもしれないが、アメリカという動物園先進国の状況がよく分かるような内容になっている。

現在の上野動物園のライオンやゴリラの飼育設備がこれに該当するが、実際の棲息環境に似せた飼育環境を作るイマージョンと呼ばれる展示方法はアメリカで1980年代からブームになった。確かに見る方にとっても、狭いコンクリートの檻に入れられているよりは、森林や草原を模した飼育設備の中に動物なんやってがいる方がいい。しかし動物にとってそれは、本当にいいことなのか?著者の問いは続く。
本来の行動が限られる飼育下では、動物が同じ場所の往復を繰り返す、食べ物を食べては吐くを繰り返すなどの異常行動が見られるが、これらをなくすための、エンリッチメントという取り組みがある。例えば熊は自然下では、一日中のほぼ大半を餌探しに費やす。日に数回決められた時間に、餌がもらえる動物園では退屈過ぎるのか、良くないらしい。熊を幸せにするために、ある動物園では日に何度も工夫に凝らして、餌をあちこちに隠したり、ばらまいたりする。1981年から始められた飼育下にある動物の遺伝子の多様性を守りながら、種の保存に取り組むSSP(Species Survival Plan)、そしてそこから発する余剰個体の問題、絶滅危惧種の野性復帰など、動物園が関わる役割や問題は計り知れないように思えた。

最後に日本の動物園の遅れが指摘されている。日本の動物園は自治体に運営されていることが多いため、お役所仕事のようになってしまうことが、一つの原因らしい。

さて、この本が書かれて13年が立った今、現状は変わっているのだろうか。