2010年2月27日土曜日

The Lady and the Unicorn

by Tracy Chevalier

クリュニー中世美術館に「貴婦人と一角獣」という名前のタペストリーがある。パリに住んでいた頃、この美術館が好きで数回たずねた。ルーブルは確かにすばらしい、オルセー美術館も素敵だった。でも私はこの美術館が一番好きだった。あらゆる点が私好みだった。その佇まいも、所在する場所も、そしてもちろんこのタペストリーが何よりも好きだった。

この本はそのタペストリーから作者が想像したフィクション。作成までの背景や詳細が謎とはいえ、判明している事柄については限りなく真実を裏切らないように書いているらしい。

ある貴族がタペストリーを注文してから完成するまでの数年の間のお話。貴族の一家、美術商、原画を描く細密画家、タペストリーを織るベルギーの職人達、とタペストリーにまつわる登場人物の間で起こるできごとが、一人称で語られる。話し手は一章ごとに変わり、口語の英語なので読みやすい。(たまにフランス語も出てくる)サスペンスのように特に何かが起こって、もしくは謎解き、というわけではないのだが、面白い。

このパリの細密画家は女好きで、お手伝いさんを妊娠させたり、この本の中だけでも三人の女性と関係を持ったり、持ちかけたりする。タペストリーの作製を依頼した貴族の娘を一目見た時から、彼女を手に入れたいと望む。そして貴族の少女も同じく。階級の違いが障害を作り、二人はさらに求め合う。しかしながら、階級の異なる貴族の少女と画家の恋愛物語と言ってしまうとちょっと違う。求め合う力がより性的な衝動に基づいている。

ユニコーンが象徴するものを知っていれば、すこしばかり官能的に描かれていることに納得する。

私の興味を引いたのは貴族の女性の自由を奪われた生活、その女性達の抗うことから運命へ従う諦めのような変化、タペストリーを作成するまでの過程、タペストリーと絵画の違いなどだ。

絵画は例えば少し下がって見る、全体を見るように作られているが、タペストリーは目がとどまったどの部分でも見た人を楽しませるようにできていなければならない、というように書かれていた(はず)。

細密画家が通常描くサイズはタペストリーよりも格段に小さく、その絵をタペストリーを織るために引き伸ばすと、空白の部分が大きくなる。そこで職人達はその空白を生めるために花や動物の模様を足すよう助言する。

おもしろい。

ところで、この本の作者は映画にもなった?「真珠の耳飾りの少女」の作者である。
ぜひこちらも英語で読んでみたいと思った。

今、英語で読んでいるトルコの小説には装丁家が出てくる。そして塩生七生さんのローマ人の物語には、文庫版を出版するにあたってなのか、本の装丁について書かれている。「本造りにはグラッツィア(優美さ)を欠いてはならない」とイタリック文字を考え出したアルドの言葉が引用されている。

どうでもいいガラクタが氾濫する世の中、きちんと造られたものの美しさを忘れないでいたい。