2012年12月26日水曜日

パンデミック新時代

人類の進化とウイルスの謎に迫る
ネイサン・ウルフ著

あぁ、おもしろかった。TEDカンファレンスにも登場した注目の学者ネイサン・ウルフによる感染症を引き起こすウイルスについて本。原題は「The Viral Storm: The Dawn of a New Pandemic Age」。専門的な知識がない人にも非常に分かりやすく書かれている。サイエンス本で、装丁もセンスよく現代的になっており、思わずジャケ買いしてしまい、中身を読んでみたら、専門的知識がないと到底理解できない内容と、いうことがままあるが、この本は大丈夫。とても分かりやすい。例に、ウイルスではないが、炭疽菌について説明されているくだりを引用する。

炭疽菌はヒツジや牛などが牧草を食べる動物にとりつく病原性細菌だが、ときどき人間にも感染して、炭疽病を引き起こし、迅速かつ効果的に死をもたらす。動物が牧草を食べる時に炭疽菌のスポア(厚い殻に覆われた一種の休眠状態で、乾燥や熱、薬品などへの耐性が強い。)を吸い込むと、宿主の体でスポアは通常の菌体となり、すばやく体中に広まるので、すぐに死をもたらすことも多い。炭疽菌は、宿主の死で終わりにしない。死にかけた宿主に残っているエネルギーを使って大量に自己複製してから、ふたたびスポアの形に戻るのだ。

という風に誰にでも分かりやすい文章で書かれている。私は仕事で翻訳もするのだが、原文では長い文章を意味を分かりやすくするために、二つに区切ることがある。この場合はおそらくプレーンイングリッシュで、短く区切られ、分かりやすく良い原文だから、理解しやすいのだと感じる。

さて、文章を褒めるのはこの辺にしておき、ウイルスではなく菌だが、炭疽菌がこのような休眠状態を取るということを初めて目にして非常に面白いと思った。
ウイルスがどのように地球上に存在していて、類人猿や人間とどのような接点があるのかを書いた第一部で特に感じるのだが、ウイルスについてウイルスの視点から書かれている。正にウイルスによるウイルスのための政治(?)。

また、注釈にあるのだが、著者はウイルスを生き物だと考えている。調べたわけではないが、おそらく現在ウイルスは公には非生物だとされていて、中に生物だと主張する少数の人がいるというのが私のイメージである。ウイルスはライフサイクルを他の生物に依存しているが、どの生命体も他の生命なしでは生きていけないので、ウイルスが特に他の生命体と違うわけではないという考えだ。細菌や古細菌、寄生虫などの微生物が生物という意見で一致しているのは単なる意味論に過ぎないと。私はこれに全く同意する。特に意味論に過ぎないと言う点。例えば、動物の分類する際に門やら科やら種やら色々あり、脊椎動物ではなかなかきちんと整理されているが、虫なんかは結構いい加減だと聞いたことがあるし、実際すっきりしないと感じることがある。つまり世の中そんなにはっきり白黒つかないのである。ではなぜ人間は区別をしないと理解できないのか、もしくはなぜ理解するために細分化するのか、をずっと不思議に思っている。池谷裕二氏の「ゆらぐ脳」を読んだ時からだと思う。今日は本題から逸れがちだ。

本の内容に戻ると、主な感染症の発祥となるのはアフリカとアジアだが、パンデミックの源は人間と野生動物の狩りという形の接触にある。アフリカでは様々な種類のほ乳類を食糧として狩るが、その中には類人猿も含まれる。類人猿と人間は近い関係にあるため、病原体をもらいやすい。人間は進化のある一時点でサルと分かれ、森から草原に出て、火を使った料理をするようになり、また数が急激に減った時期などを経て、サルとは異なる菌やウイルスを持つようになった。過去に持っていた病原体を失うとともに、その病原体から自らを守る方法もなくしてしまった。それでも生物的に近いため、サルの持っている病原体は感染しやすいのである。現在も行われている野生動物の狩りでは、血が流れ病原体にさらされやすい状態になる。そこで著者は関連団体からの助成や協力を得、世界中でパンデミックが起こるのを予想する世界ウイルス予測(GVF)という組織を立ち上げた。病原体の渡し手となるハンターを監視し、感染症が起こったらその情報を集めて、パンデミックの未然に防ぐための組織である。本を読んでいるだけでも著者のとてつもない情熱がひしひしと伝わってくる。情熱というのは文章に現れる。ある一定の速いスピードを持った文章になる不思議だ。

私も彼程ではないが、ウイルスに情熱を持っているので、この人生が終わる前に再度大学で学びたいと、ぼんやり毎日夢を見ている。

竜馬がゆく(四)

司馬 遼太郎著

記録のため、タイトル、著者名のみ。

竜馬がゆく(三)

司馬 遼太郎著

記録のため、タイトル、著者名のみ。

竜馬がゆく(二)

司馬 遼太郎著

記録のため、タイトル、著者名のみ。

2012年11月19日月曜日

感染症との闘い

サイエンティフィック・アメリカン編

記録のため、タイトルと編者名のみ。

2012年11月7日水曜日

最強ウイルス

新型インフルエンザの恐怖
NHK「最強ウイルス」プロジェクト

全くウイルスはやめられない。図書館でついついウイルスの本があるかチェックしてしまう。返却だけで借りないつもりが手に取ってしまった「感染症との闘い」、「感染症ワールド」、そして「最強ウイルス」。二週間で全て読めないと思うが...。
2008年にNHKで放送されたドラマとドキュメンタリーの「最強ウイルス」を映像には含まれなかった内容も含めたのが本書。テレビ番組が土台としてあるため、非常に分かりやすい。

新型インフルエンザとはH5NI型、高病原性鳥インフルエンザのことである。近年では1997年に香港で死者が発生しているが、ここでは2006年インドネシアで死者7名を出した際のWHOによる封じ込めが緊迫感を持って書かれている。WHOが作成しているパンデミックのプロセスは6段階に分けられている。フェーズ1人に感染する恐れのあるインフルエンザウイルスが存在するが、ヒトへの感染リスクは少ない、フェーズ2 動物において流行しているインフルエンザウイルスが、ヒトへの発症に対してかなりのリスクを提起する。フェーズ3 新しいヒト感染が見られるが、ヒトからヒトへの感染は拡大していない。フェース4 ヒトからヒトへと感染する小さな集団が見られるが拡散は限定されている、フェーズ5 より大きな集団感染がみられるが、ヒトからヒトへの感染は限定的、フェーズ6 パンデミック期。ヒト社会で感染が増加しかつ持続する。
H5N1はフェーズ3からフェーズ4に引き上げられるかというところだったが、WHOの努力によりインドネシアでのそれ以上の拡大はなかった。2008年のデータだが、感染380人のうち280人が死亡している。死亡率は60%である。鳥インフルエンザは他のインフルエンザと異なり、多臓器不全(生命維持に必要な複数の臓器の機能に障害)を起こすゆえ、致死率が高い。

同時多発テロの記憶がまだ新しいアメリカがパンデミックにどのように備えているか、日本ではどのような準備があるか、またパンデミックが起こった場合にどの命から助けていくか、救うべき命に対する優先順位づけの話なども書かれている。

最後にパンデミックがどれだけ迫ってきているかについて、3人の専門家から意見を聞いている。個人的には北海道大学の嬉田教授の意見が面白いと思った。20世紀に3回起こったパンデミックはいずれもブタからヒトに伝播したウィルスによって起こっている。つまりH5N1がパンデミックを起こすとすれば、ブタ等の動物にヒトのインフルエンザウイルスが同時に感染し新型ウイルスが誕生した場合だと。そしてH5N1はそれに暴露している人の数に対して感染者の割合が少ないため、パンデミックを起こしにくいタイプのウィルスである。では380人はなぜ感染してしまったか?それはこの人たちが鳥インフルエンザに感染しやすい特殊な遺伝的背景を持っているからと述べられている。実際にヒトからヒトへ感染したように見えるケースでは兄弟姉妹に限られ夫婦間ではないそうだ。そこで疑問に思うのだが、なぜブタなんだろうか?鳥よりもブタというのは分かる。なぜならきっと鳥よりもブタの方が体の構造などが人間に近い。なぜ牛じゃないのだろう。そういえば、先日テレビで見たiPS細胞を利用した臓器作成でも使われていたブタだったような気がする。実験動物として牛より扱いやすいからか、構造が牛よりもブタの方が近いからか?ブタには胃袋、いくつあるんだろうか。

生命のことを考えると面白くてたまらない。とても複雑で一つ知る度に知らないことが何十倍にも増えて終わりがない。

2012年10月28日日曜日

ソブリン・クライシス

欧州発金融危機を読む
みずほ総合研究所編

今月はIMFの総会が東京で開催されたので、旬なトピックと思い2010年に発行された本書を図書館で借りた。まずはタイトルにある「ソブリンリスク」がどういう意味かをきちんと理解するために調べてみると、国家に対する信用リスクということ。これが何かと国家を個人に置き換えて考えてみると、例えば、毎月定期的な収入がなく、収入に見合わない出費をしている人が銀行でお金を借りようとしたら、信用リスクが高く貸すことができない。逆に長い間一つの会社に勤め持家などの資産もあり安定した収入がある人は信用リスクが低く、貸し出しができるとなる。国家も同様で収入に見合わない支出(財政赤字)が多く、現在借りている借金(国債)を返済できなくなる(デフォルト)ような事態が予想されれば、その国の信用リスクは高くなる。

恥ずかしながら、私は2010年のギリシャの財政懸念が発端となった世界の金融市場への影響というものをあまり記憶していない。私の頭の中では2008年リーマンショックからすぐに2011年の東日本大震災、サプライチェーンの寸断による日本製造業への影響、2011年夏頃のアメリカ政府のデフォルト懸念という風になっている。

本書を読んでギリシャの問題は最近始まったことではなく、なんとユーロ(欧州連合)へ加盟する段階にまで遡ることを知った。欧州連合への加盟には経済的条件があり、財政赤字は国内総生産の3%以内でなければならないのだが、1999年以降、虚偽の報告をしていた。その事実が明らかになるのが2004年だが、性懲りもなくその後も歳出計上漏れがあったと2008年に報告。この時点で既に相当信頼できない国だと思えるが。

本書は六章に分かれて構成されている。一章では過去の財政危機を振り返り金融危機の延長上に現在のソブリンリスクがあること、二章ではギリシャの問題について多角度に論点を整理、三章では共通通貨であるユーロが抱える構造問題、四章では欧州経済の脆弱性として域内不均衡の問題を取り上げ、他ユーロ諸国のリスクの所在、五章では通貨という観点からユーロを眺め、六章では日本の財政問題に焦点を当てている。

とまあ、経済の基礎が分かっていない私には十分に理解できない部分も多くあるが、それでも学べたこともある。特に第三章のユーロが抱える構造問題というのが大変面白かった。第三章の終わりに「ユーロは何を誤ったのか?」として書かれているのだが、ユーロは「安定成長協定」を結び財政的な健全さを維持はしているが、危機対応の想定がなされていない。また通貨同盟を達成しているが、政治同盟が深化しなかった。どういうことかというと通貨と金融政策が一本化されたが、財政は分権的なままで域内の財政再分配機能が不在している。ここで対照的な例として米国の州財政が挙げられる。米国は各州単位で財政がなされているが、2008以降の景気後退期には刺激策として連邦政府から州政府へ支援が実施されている。ユーロの場合はそれが十分ではない。また政策協調を実施する仕組みが欠如している。これはテレビのニュースを見ていても思うことだが、ユーロ域内の不均衡をなくすため、または危機に陥っている国の救済にしても各国ばらばらの国内政治状況が反映され、まとまらず硬直してしまう。

最後の章では日本が借金大国であるのにもかかわらず、国債価格に反映されないかなど今まで詳しく書かれている。確かに世界一の借金大国であるのに、国債の利率はとても低い。イタリアが7%台と騒いでいるが、日本は1%(?)以下。(ちなみにイタリアのプライマリーバランスは黒字らしい)日本の財政赤字について取り上げられる際に、通常GDP比で表されることが多いが、ここでは各国の資産も加味したバランスシート上の財政赤字(総資産における総負債額)、(金融資産における金融負債額)も各国別に比較されているので非常に興味深い。
ただし米国などは軍事関連の情報等、国の資産について一部情報が非公開となっているそうだ。



2012年9月14日金曜日

心の安らぎを得る究極のタイムマネジメント

ハイラム・W・スミス著

記録のためタイトル著者名のみ。

2012年8月25日土曜日

脳を鍛えるには運動しかない!

ジョンJ. レイティ著

記録としてタイトル、著者名のみ。

2012年6月23日土曜日

動物のお医者さんになろう!!

浅井美穂著
記録としてタイトル、著者名のみ。

ウィルスと地球生命体

山内一也著

記録としてタイトル、著者名のみ。

2012年5月20日日曜日

眠れない一族

食人の痕跡と殺人タンパクの謎
ダニエル T マックス著


題名にある「眠れない一族」というのは、致死性家族性不眠症(FFI)というプリオン病を代々患うイタリアのある家族を指しているが、内容はこの病気以外も含めたプリオン病およびプリオンについてである。
FFIという病気はある日突然眠ることができなくなって、精神状態に異常をきたし、最後に死に至る治療法のない病気だ。そこで不思議なのが、FFIの遺伝子を持っているものは必ず死に至るのに、この家族が少なくとも分かっている範囲で16世紀(17世紀?)からずっと続いているということだ。遺伝は100パーセントの割合で現れる訳ではないのもその一つの理由だが、発症するのが出産や子育てを一段落おえた50代などと遅いこと、またFFIの家系は世界的にみても非常に少なく、病気の原因が長い間特定されず遺伝病と認識されていなかったことにもよると思う。
著者自身も別の種類のプリオン病を患っていて、プリオンについて徹底的に調べた内容は非常に良いと思う。狂牛病についても全容を理解するに必要な情報が詳しく書かれていてよかった。問題点は文章がおかしいこと。非常に読みづらい。始めは翻訳の問題なのかと思ったのだが、おそらく原文でも読みにくいと思う。例えばタイトルは「眠れない一族」で、FFIを患うイタリアの家族の家系図も始めについている。小説仕立てで、FFI病とこの家族に関する話なのかと思いきや、それはほぼ一章くらいで終わる。構成に問題があるような気がする。また文章の流れを見ても、少し途切れて突然ターンするような部分があるのだ。もしかすると著者が体調のよくない時に書いた文章だろうか?そのため、内容はとても良いにもかかわらず非常に読みづらく、読み終わるまでに多く時間がかかった。


2012年5月7日月曜日

腸からはじめる幸せ健康法

新谷弘実著

食べ物にアレルギーがある会社の同僚から借りた本。著者の新谷氏はアメリカで活躍する胃腸内視鏡分野の医者である。雑誌のような薄めの本で、中には新谷氏だけではなく他の複数の医者が腸内環境、特に乳酸菌と健康の関係を述べている。新谷氏はアメリカで診察にあたっていたのだが、肉食を中心とするアメリカ人の食生活は胃腸に悪いことに気がついた。そのために汚れたり荒れてしまっている胃腸の写真も掲載されている。確かこの本で読んだと思うが、成人病大国となってしまったアメリカは状況を改善するために、国をあげて野菜を多く取るよう奨励し、現在のアメリカ人の野菜摂取量は日本人のそれを上回っているそうだ。また、日本では農作できる土地が限られていて、長期間にわたる農薬や科学肥料の使用により収穫される野菜自体の栄養価が下がっている。同じほうれん草でもアメリカで育ったほうれん草の方が栄養が豊富ということだ。一般的なアメリカ人の肥満ぶりを見ると、野菜の摂取量については信じられないが、野菜の栄養価については本当かもしれない。もともと肉食の歴史が長い白人は脂肪を溜めやすい体にできているため、もしかすると現在の日本人も表面に現れていないだけで十分不健康なのかもしれない。
本書で薦められている食生活についてはマクロビやその他菜食を中心とする健康法と似通っている。動物および鶏の肉食を既にやめていたので、提案されている生活方針には納得。
ここで新に学んだのは副交感神経と、交感神経のバランスについてだ。白血球に含まれるリンパ球の割合が多くなると副交感神経がよく働きリラックスした状態になる。顆粒球が増えると交感神経がよく働き活動的になる。そして人間はこのバランスを上手くとっていないと病気になる。ストレスいっぱいの生活もだめだが、リラックスし過ぎても病気になるということだ。

2012年4月27日金曜日

たんぱく質入門

武村 政春著

たんぱく質とはどういうものか教えてくれるその名の通り入門本。色々な本を読んで病気や食べ物について考えている中で、生物の基本であるたんぱく質について理解したいと思い手にとった。たんぱく質が20種類のアミノ酸で成り立っていることは知っていたが、実際どのようにアミノ酸から成り立っているか、DNAがたんぱく質を作るための情報を持っていることは知っているが、具体的にどのようにたんぱく質を作り出しているかなど、私の中に様々な疑問があった。この本を読むことでそれは解消できた。しかしながら、これを書いている今(6月23日)は読み終わって2月くらい経っているのだが、内容を結構忘れている。生物系の本を結構読んできたので、それなりに積み重なってそろそr忘れないくらいしっかり理解できた事柄もあるが、なかなか難しい。これは忘れないでおこうと頭の中で何回か繰り返して覚えたのが、たんぱく質の構造。20種類のアミノ酸はほぼ同じ構造をしていて側鎖という部分だけが異なり、その違いをつくっている。アミノ酸同士がペプチド接合でつながったポリペプチドが一次構造、それらがくっつき板状や螺旋状になる二次構造、二次構造を折り畳んでできる三次構造でたんぱく質となる。そして三次構造が集まってともに働くたんぱく質複合体(四次構造)というのもある。とても複雑だ。そしてとても美しいと思う。命の構造を知れば知るほど、その美しさに魅了されてしまう。

2012年4月26日木曜日

キリング・フィールドへの旅

カンボジアノートII
波田野 直樹著

1975年から1979年の間にカンボジアではクメールルージュによる国民の大虐殺が行われた。本著は虐殺行為の残虐さに焦点を当ててはいるのではなく、当時のカンボジアを取り巻く環境や時代背景を確認しながら、なぜ彼らがそのような方向に向かったかという一つの疑問を、虐殺の場への訪問と集めた資料を通して解こうとしている。
先日NHKオンデマンドで、国連の国際裁判所によるクメールルージュ幹部と処刑施設トゥールスレンの所長に対する裁判のドキュメンタリーを見た。そのせいか図書館の本棚にあるこの本に目が止まってしまった。私みたいな文章の下手な人間が言うのもなんだが、この本の文章は、色気なく歴史上の事実を並べたノンフィクションとは異なり、小説のように書かれていて、読みやすい上に文章が美しい。どう表現していいかわからないのだが、すばらしい。
始めの方に使用される用語の定義が述べられる。その中で始めてはっきりとその定義を認識したのがジェノサイドだ。ジェノサイド(民族、宗教、国民などの集団に対する大虐殺)はユダヤ人学者が第二次世界大戦中のホロコースト以降に創り出した言葉だそうだ。現在は人類に対する罪として認識されている。

そして私が長く疑問に思っていた点に触れる。戦争を根絶できないように虐殺もまた根絶できない。人間というのは不思議な存在で、相反する要素を未整理のまま内包した存在である。戦争や殺人がなぜ起こるのか不思議である。もしそれがその存在にとって悪いことであれば、自然と殺人や戦争が起こらないように思える。しかしながら、人類の歴史ではいつもどこかで戦争や殺人が起きている。一つの規範の中では穏やかに暮らす人間も、一旦別の規範に入れられてしまえば、残虐なことを平気で行えるようになる。

S21と呼ばれていたトゥールスレンやその他の処刑場所の訪問、政治的な背景、クメールルージュ幹部達と同時期にパリに留学していたカンボジア人との会話、現在のカンボジア人がどう受け止めているかなどを通して、著者が経験したものを共有することができる。

さて、なぜ彼らが一説には170万人といわれている数の自国民を虐殺したのか、その理由について明確な結論は述べられていない。読者自身がその答えを出すよう求めているかのようだ。