2010年3月26日金曜日

大腸菌

カール・ジンマー著

目の前がぱっと開ける感覚がある。

私の人生では13歳の頃、学校からの帰り道に「自分が考えている」ことに気づいた瞬間、ゴダールの「勝手にしやがれ」を観た時、フェリーニの「甘い生活」を観た時、ウォンカーウァイの色気ある香港を知った時、三島由紀夫の「金閣寺」を読んだ時にその感覚がやってきた。こういうのって個人的なパラダイムシフトとでも言えるのだろうか?シャガールがパリに行って色を知ったように、がつんと殴られたような感じの後に頭の中がバチカン美術館の壁のように鮮やかに彩られる。残念ながら「それ」はあまり頻繁には起こらない。あんなに鮮やかだった壁も時を経て、白黒に近いほど色褪せる。

一番最近起こった「それ」は「DNA」を読んだ時だった。
そしてこの本がまた「それ」をもたらしてくれた。

と興奮しているわりには内容がわからないのである。生物に関する基礎知識がないから全てをきちんと理解はできないのが残念でたまらないので、「好きになる生物学」をもう一度読むことにした。細胞の仕組みから学び直しである。その後に何度か読み返すことになりそうだ。
恒温動物の発生により快適な住まいを得たE・コリ(大腸菌)、鞭毛も必要に応じて作り出したり、くるくるそれを回して食べ物を探すために回転の向きを変え、コロッと方向転換するE・コリ、研究室で育てやすく遺伝子研究、生物進化の分野で重要な役割を果たしているE・コリ、長い時間をかけてセックス(遺伝子の交換?)をするE・コリ。著者のE・コリに対する敬愛が行間よりこぼれ落ちる文章でほのぼのする。

抗菌抗菌と一生懸命な時代だけれど、人間は菌と一緒に生きてきたどころか、細菌は私達の源であることを学べてとても幸せになった。一番衝撃を受けたのはどうもウィルスによって種が分化したらしいことだ。そんなこと専門に勉強した人にとっては当たり前の説なんだろうけれども、私にとっては人間が初めて飛行機で空を飛べたことくらい驚きである。

これまで勉強しなかったことをずっと後悔してきたが、多くの発見と感動が残されていると思うと、高校の頃からろくに勉強もせず飲み歩いていてよかったと思う。