2010年3月17日水曜日

人はダマシ・ダマサレで生きる

池田清彦著

本屋さんの文庫コーナーをぶらぶらしていたら、この本と目が合ってしまった。すると著者は生物学者とのこと、袖部分に写真があるかなんというか、ちょっといたずらっこのような素敵な表情である。きっと楽しい人だと思う。勝手な想像だけれど。
買うと決めたのは前書きの部分を読んで。

=引用=

トゲトゲという妙な名前の昆虫がいる。これによく似てとげがないものをトゲナシトゲトゲという。昔、本文にも出てくる小宮義璋先生とタイの山奥に虫採りに行ったことがある。夜中に寝入ったばかりの頃、「大変だ、池田君」と言って小宮さんに起こされた。ねぼけまなこの私に向かって小宮さんはうれしそうに言ったのだった。「このトゲナシトゲトゲ、とげがあるぞ」
トゲアリトゲナシトゲトゲの発見である。

=引用終=

心をくすぐられた。ふふふっという感じ。トゲトゲ。トゲナシトゲトゲ。こういうユーモアのセンスが好きだ。

上のトゲナシトゲトゲは人間が騙された(?)一例だが、昆虫や動物は別に騙している訳じゃなく、人間がこちらの価値観を自然界に押し付けて勝手に騙した騙されたと騒いでいるだけ。
世には現象があり、現象は常に変わる。一方で概念は不変でこの世には実在しない。人間は概念を実体化することで自らを騙す稀有な動物、とある。やっぱり生物が好きな人はちょっと人間嫌いの気があると思うのは私だけ?

概念を実体化して、それによって苦しめられる。そういえば先日読んだ「妬み」も概念だ。何を読んでもずっと自分が本来の形からずれてきたことばかりに考えがいく。そう全ての本が私にそう語りかけているよう。好きなことをするということ、概念ではなく現象を見ること、本質からずれないこと。

私はどうも虫や動物について書かれた部分ばかりに興味が向いてしまうが、世の中のダマシ、ダマサレについて環境問題、政治、政策、法律、教育等の視点から書かれている。実は「こんなに騙されている!」ということを書いた本や情報はあまり好きじゃない。騙されても幸せならいいんじゃないかと思う。

しかしながら、世に流れている情報や物を異なる視点から見るという意味で、時にはこういった本を読むべきだなと思った。何よりも驚いたのは地球温暖化について。実は地球が温暖化しているか、寒冷化しているか分からないと書いてある。太陽の黒点が薄くなった過去に地球は寒冷化したそうだ。丸山茂徳さんという地質学者は後5-10年で地球は寒冷化すると主張されているらしい。びっくりである。実際のところは地球がどちらに向かっているかわからないらしい。寒冷化を止めようと二酸化炭素を出してかろうじて守っているかもしれない、と。

本当に勉強になった。ふらふらと別の本屋に立ち寄った時、「38億年生物進化の旅」というタイトルに目が止まった。中をざっと読んでみて、著者名を見て、あれどこかで聞いたことがあるなと思ったら、この方の本だった。生物系の本があるあたりをチェックしていたので、ありえる偶然だが運命的なものを感じた。そもそもこの本屋にある生物系の本はほんの20冊くらいで、またこの本を読んだ直後だったので余計に驚いた。

絶対読んでやる。